「親が認知症になったら、銀行口座が凍結されると聞いた」

「成年後見制度は費用が高いし、使い勝手が悪いと聞く。もっと良い方法はないのか」

「家族信託という言葉を聞いたが、自分の家庭に必要なのかわからない」

このようなお悩みを抱えていませんか。

親の高齢化が進むにつれて、「もしも」に備える対策は年々重要性を増しています。そして今、認知症対策・相続対策の両方を同時に実現できる制度として注目されているのが家族信託です。

この記事では、家族信託の仕組み・成年後見制度や遺言との違い・費用・手続きの流れ・デメリットまで、はじめての方にもわかりやすく整理します。読み終えたときには、ご自身の家庭に家族信託が必要かどうかを判断できるようになるはずです。

家族信託とは?わかりやすく解説

家族信託とは、自分の財産の管理や処分を、信頼できる家族に託す仕組みです。2007年の信託法改正によって利用しやすくなり、近年、認知症対策として急速に広まっています。

家族信託の3つの登場人物

家族信託には、次の3つの役割が存在します。

  • 委託者(いたくしゃ): 財産を託す人(例: 高齢の親)
  • 受託者(じゅたくしゃ): 財産の管理・処分を任される人(例: 子)
  • 受益者(じゅえきしゃ): 財産から利益を受ける人(例: 親本人)

一般的な家族信託では、親が委託者兼受益者、子が受託者となります。親の財産を子が管理しますが、その財産から生まれる利益(家賃収入など)は引き続き親が受け取る、という仕組みです。

具体例でイメージしましょう

80歳の父(委託者・受益者)が、50歳の息子(受託者)に自宅と預金を信託したとします。このとき、自宅の名義は「受託者 息子」に変わりますが、息子は自分のために使うのではなく、父のために管理します。父の生活費・施設入所費は信託された財産から支払われ、父が亡くなった後の財産の承継先も、信託契約で事前に決めておくことができます。

なぜ家族信託が注目されているのか

背景には、認知症による「財産凍結」リスクの深刻化があります。厚生労働省の推計では、2025年時点で認知症高齢者は約700万人。実に高齢者の5人に1人です(厚生労働省 認知症施策推進大綱)。

判断能力が低下すると、本人名義の預金の引き出し・不動産の売却・各種契約の締結ができなくなります。介護費用や施設入所費が必要なタイミングで、肝心のお金が動かせないという状況が現実に起こっているのです。

家族信託を事前に設定しておけば、こうした事態を防ぐことができます。

家族信託と成年後見制度・遺言の違い

家族信託と混同されやすい制度に、成年後見制度遺言があります。それぞれの違いを整理しましょう。

成年後見制度との違い

項目 家族信託 成年後見制度(法定)
開始時期 契約時(元気なうち) 判断能力低下後
管理者 家族(受託者) 裁判所が選任(専門職が多い)
財産の柔軟な運用 ◎ 可能 × 制限が厳しい
不動産の売却 ○ 契約内容次第で可能 △ 裁判所の許可が必要
月額報酬 原則なし 月額2〜6万円が目安(一生続く)
身上監護権 なし あり
裁判所の関与 なし 常時監督される

大きな違いは**「柔軟性」と「コスト」**です。成年後見制度は本人保護が最優先されるため、財産を減らす行為(資産運用・生前贈与・不動産売却)が極めて制限されます。一方、家族信託は契約で自由に設計できるため、積極的な資産活用が可能です。

遺言との違い

項目 家族信託 遺言
効力が生じるとき 契約時から(生前も死後も) 死亡時のみ
認知症対策 ◎ できる × できない
二次相続の指定 ◎ できる(受益者連続) × できない
書き換えの容易さ △ 契約変更が必要 ◎ いつでも書き換え可能

遺言は「死後の財産の行き先」を決めるもの。家族信託は「生前の財産管理」と「死後の承継」の両方をカバーできる点が最大の特徴です。

特に**「受益者連続型」**の家族信託では、「妻が亡くなった後は長男に、長男が亡くなった後は孫に」といった2次相続・3次相続までの承継先を指定できます。これは遺言では実現できない家族信託独自の強みです。

家族信託が必要なケース・不要なケース

家族信託が必要な典型例

  • 親が70歳以上で、認知症対策をしておきたい: 判断能力があるうちしか契約できないため、早めの対応が必要
  • 実家などの不動産を所有している: 認知症後は売却できなくなるリスクが大きい
  • 賃貸物件を持っている: 家賃の受け取りや修繕契約を子が代行できる
  • 自社株を次世代に承継したい(事業承継): 議決権と配当受益権を分離できる
  • 障害のある子の将来に備えたい: 親亡き後も子の生活費が管理される仕組みが作れる
  • 二次相続の指定をしたい: 「妻亡き後は長男」といった承継を確実にしたい

家族信託が不要なケース

  • 財産が預貯金のみで金額も少額
  • 子が1人しかおらず、相続に争いの心配がない
  • すでに認知症が進行しており、契約する意思能力がない(※この場合は成年後見制度を利用)

「必要かどうか」の判断は、ご家族の構成・財産の内容・親御さんの健康状態によって変わります。迷ったら、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

家族信託のメリット

1. 認知症になっても財産管理が継続できる

最大のメリットです。契約時点で受託者(子など)に財産管理の権限を渡しているため、委託者(親)の判断能力が低下しても、変わらず財産を管理できます。

2. 柔軟な資産活用ができる

成年後見制度と違い、裁判所の許可を要する場面がほとんどありません。不動産の売却・リフォーム・資産運用も、信託契約の範囲内で家族の判断で実行できます。

3. 遺言を超える承継設計ができる

受益者連続型信託を使えば、「妻→長男→孫」というように2世代・3世代先までの財産の流れを決められます。

4. ランニングコストがかからない

成年後見制度は専門職後見人に月額2〜6万円の報酬が発生し、本人が亡くなるまで続きます。10年利用すれば300〜700万円の負担になる計算です。家族信託は原則として継続的な報酬が不要です。

5. 相続対策も同時にできる

信託契約の中で「誰に」「何を」承継させるかを決められるため、遺言の代わりの機能を果たします。遺産分割協議が不要になり、相続トラブルの予防にもなります。

家族信託のデメリット・注意点

メリットが多い一方で、必ず押さえておくべき注意点もあります。

1. 身上監護権はない

家族信託は「財産管理」の仕組みであり、医療契約・介護施設への入所契約といった身上監護行為は受託者の権限に含まれません。身上監護が必要な場合は、任意後見制度の併用を検討します。

2. 節税効果は原則ない

家族信託自体に相続税の節税効果はありません。あくまで財産管理と承継の仕組みです。節税対策が目的なら、別途相続税対策を検討する必要があります。

3. 初期費用が高い

専門家への報酬・公正証書作成費用・登録免許税など、初期費用は30〜100万円程度かかります(詳細は後述)。

4. 受託者に重い責任がある

受託者(多くは子)は、委託者の財産を適切に管理する義務を負います。帳簿の作成・税務申告・信託財産の分別管理など、一定の事務負担が発生します。

5. 対応できる専門家が限られる

家族信託は新しい制度のため、すべての士業が精通しているわけではありません。経験豊富な専門家を選ぶことが重要です。

家族信託の費用相場

家族信託にかかる費用は、信託する財産の規模や内容によって変動します。一般的な目安は次のとおりです。

項目 費用の目安 内容
専門家のコンサルティング報酬 30〜70万円 信託設計・契約書作成の対価。財産額に応じて変動
公正証書作成費用 3〜10万円 公証役場で支払う手数料
登録免許税(不動産がある場合) 固定資産税評価額の0.3〜0.4% 信託登記のための税金
信託口口座の開設費用 0〜5万円 金融機関によって異なる

たとえば、自宅(評価額2,000万円)+預金3,000万円を信託する場合、総額で60〜90万円程度が目安となります。

「高い」と感じるかもしれません。しかし、成年後見制度で月3万円の報酬を10年間支払うと360万円。比較すると、長期的には家族信託のほうが大幅に安くなるケースが多いのです。

家族信託の手続きの流れ

家族信託は、おおむね次の5ステップで進めます。全体で1〜3ヶ月ほどかかるのが一般的です。

Step 1: 家族会議で方向性を話し合う

まず、家族間で「誰が何を管理するか」「誰に承継するか」の合意を形成します。親・子・他の兄弟姉妹など、関係者全員の理解が不可欠です。

Step 2: 専門家へ相談・設計依頼

行政書士・司法書士・弁護士など、家族信託に詳しい専門家に相談します。家族構成・財産内容・目的をヒアリングのうえ、信託契約の設計を行います。

Step 3: 信託契約書の作成

専門家が契約書案を作成し、委託者・受託者の双方で内容を確認します。受益者・受託者の権利義務、信託の目的、終了事由などを細かく定めます。

Step 4: 公正証書化

契約内容を公証役場で公正証書にします。信託口口座の開設や不動産登記で公正証書が必要になるケースが多いため、実務上は必須と考えてよいでしょう。

Step 5: 信託口口座の開設・信託登記

金融機関で信託口口座を開設し、信託財産の管理を開始します。不動産を信託する場合は、法務局で信託登記を行い、名義を「受託者」に変更します。

家族信託に対応できる専門家

家族信託の設計・契約書作成に関わる主な専門家は次のとおりです。

行政書士

信託契約書の起案や公正証書の作成支援が主な役割。費用は比較的抑えられる傾向があります。不動産登記は業務範囲外のため、登記は司法書士と連携します。

司法書士

信託契約書作成に加えて、信託登記(不動産の名義変更)まで一貫対応できるのが強み。不動産を信託する場合は司法書士への依頼がスムーズです。

弁護士

家族間でトラブルの懸念がある場合や、複雑な権利関係が絡む場合に適任です。紛争予防・解決の専門家として、より慎重な契約設計が可能です。

税理士

信託の設計には税務の視点も不可欠です。贈与税・相続税の取り扱い、信託受益権の評価など、税理士との連携が必要になります。

実務では、司法書士または行政書士が中心となり、必要に応じて税理士と連携するスタイルが一般的です。

よくある質問(FAQ)

Q. 家族信託は自分で作成できますか?

理論上は可能ですが、強くおすすめしません。信託契約書の内容に不備があると、金融機関が信託口口座の開設を拒否する、不動産登記ができない、意図と異なる課税が発生するなど、後戻りできないトラブルが起こります。必ず専門家に依頼してください。

Q. 契約後、内容を変更できますか?

契約書に変更の条項が明記されていれば可能です。委託者の判断能力があるうちなら、受託者との合意で変更できます。将来の変更に備えて、柔軟な条項を入れておくことが大切です。

Q. 家族信託を解除したい場合は?

信託契約に定めた終了事由(委託者の死亡など)が発生した場合、または委託者・受益者の合意で終了できます。終了時には信託財産を残余財産受益者に引き渡します。

Q. 家族信託と任意後見はどちらが良いですか?

目的によります。財産管理だけなら家族信託が柔軟で低コスト。身上監護(医療契約・介護施設契約)が重要なら任意後見が必要です。多くのご家庭では両方を組み合わせて使うのが理想的です。

Q. 相続税は節税できますか?

家族信託自体に直接の節税効果はありません。ただし、信託を活用した資産承継設計によって結果的に相続税が最適化されるケースはあります。税理士との相談をおすすめします。

まとめ:家族信託で将来の安心を

家族信託は、認知症による財産凍結を防ぎつつ、柔軟な相続対策までカバーできる強力な仕組みです。一方で、初期費用や受託者の責任、身上監護ができない等の注意点もあります。

重要なのは、親御さんの判断能力がしっかりしているうちに準備を始めることです。認知症が進行してしまってからでは、そもそも契約を結ぶことができなくなります。

「うちは家族信託が必要なのか」「どう設計すれば最適か」といった疑問は、家族構成や財産内容によって答えが大きく変わります。まずは家族信託に詳しい専門家に相談し、ご自身の状況に合った最適な方法を検討することをおすすめします。

参考・出典